昔住んでいた家

山の麓にあったので、山開きの日は暗いうちから人が歩く音、話し声や笑い声で眠れなかった。


古い木造の家で、結構広い庭があって、ライラック、かりんず、ギボウシ、チューリップ、ヒヤシンス、ラッパ水仙、牡丹、紫陽花などいろんな花、私が生まれた時に植えたという白樺、家の前にはオンコや豆リンゴの木があった。


父親は大工をしていたので、ブランコや鉄棒、砂場も作ってくれていた。手入れされたきれいな庭ではなかったけれど、今思うととても贅沢な空間だった。


父親は京都の大きな呉服屋の息子で、お風呂上がりにはお手伝いさんが梨をむいてくれたとか。


父親の父親はズボンプレッサーに手を出して失敗し、行商先で亡くなったそうだ。


詳しい経緯は聞いたことがないが、父親の母親は子ども3人を連れてこちらにやって来て洗い張りの仕事をして生計を立てていたらしい。


お盆には庭の花やゆでたとうもろこしを売ったりもしていたようだ。


父の兄のひとりは障害があり自分ではうまくものを食べられなかったので、母親は食べ物を噛み砕いてやり、口移しで食べさせていたそうだ。


大変厳しい人で、私の母はよく物差しで手を叩かれたと言っていた。


マンションが建つというのでその家も土地も売って引越したのだが、懐かしい思い出がたくさんある家で、今もあの場所にあるような気がする。そして家の中には今も父と母がいるような気がする。


あの家で過ごした時間はどこへ行ってしまったのだろう。